TOKUSHIMA UNIVERSITY Digital Fabrication PROJECT
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お七“OSHICHI”

伝統をメイク初作となるお七のヘアメイクは、2016年、資生堂の宣伝広告のヘアメイクやパリコレなどで活躍する資生堂トップヘアメイクアップアーティストの計良宏文さんによって行われました。普段は人の顔へのメイクを施している計良さん。プラスチック素材が作り出したお七のさらっとした表層から個性を感じ取り、息吹を与えてくださいました。人の顔を美しく生まれ変わらせるメイクの技術が浄瑠璃人形へ。現代的な可愛らしさと美しさの共存する表情のお七が生まれることになりました。

お七とは

名を八百屋お七と言い、江戸時代前期、江戸本郷駒込の八百屋の娘で実在する人物でした。彼女は恋人に会いたい一心で放火事件を起こし火刑に処されてしまいます。江戸時代に起きたこのセンセーショナルな事件は瞬く間に文学や芸能作品にされ、人形浄瑠璃でもこれを題材とした作品が多く残っています。現在でも人気が高く繰り返し上演されている「火の見櫓の段」。特に、お七が梯子を上り長い髪を振り乱して鐘を打つシーンや袖を口元にかけて涙を流すシーンなど、人形の全身を遣った美しい見せ場が登場します。そのため、伝統的なお七の人形は、涙を流す表現ができるように目を閉じるからくりと、口元に袖をかけられるよう、針が仕込んであります。また、頭を上下に動かすチョイがついており、顔の向きで喜びや悲しみを表現します。

私たちの初作のお七は、3Dデータを生成することに重きを置き、からくりは再現することができませんでした。感情の表現は、固定されている頭部と胴串を直接操作し顔の傾きを変えることで行います。

お七のヘアメイク

今回は浄瑠璃人形を3Dデータ化する初めての試みだったことから、試行錯誤の末、2体の異なるお七の原型をスキャン・出力し、どちらともに計良さんにメイクをしていただきました。同じお七の役柄でも骨格や目鼻立ちの全く異なるお顔です。計良さんにとっても、浄瑠璃人形のメイクは初めての取り組み。そのため全てが手探りでのスタートとなりました。人形遣いの勘緑さんに浄瑠璃人形としての表情のあり方を教えていただきながら、まずはリューターを使い、3Dプリインター出力後のややのっぺりとした印象から手作業でめりはりを付けていきました。次第に、二重の線や目の輪郭、口元などの凹凸などが美しく浮き上がりました。アクリル絵の具を溶いたエアスプレーでファンデーションとなるわずかに血色のある肌の色を薄くのせた後、眉や瞳、口等を丁寧に描き入れていきました。最後に人毛とヤクの毛を付けてヘアセットし、完成です。

ダイナミックな表現を生み出すお七

このお七はプラスチックという軽い素材で作られたことから、他の人形よりもダイナミックに体を動かしやすく、新しい様々な表現や舞台作品が生まれていきました。大柄で舞台に美しく映える、現代的な表情をたたえた人形として活躍しています。

News

  • 2017年2月 徳島新聞に3Dプリンターで木偶制作をし都内で公演した記事が掲載されました。
  • 2017年2月 徳島新聞に3Dプリンターで作った木偶の活用を探る地域交流シンポジウムの記事が掲載されました。

活動・公演の展開

PROJECT MEMBERS CREDIT

  • [原型]お七
  • [作者]人形洋(1945〜)
  • [人形の貸し出し協力] 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
  • [ヘアメイク]計良宏文(資生堂)
  • [3D人形カシラ制作]浮田浩行(徳島大学)、(有)赤沢製作所
  • [3D人形胴手足制作]浮田浩行(徳島大学)、河野太樹(徳島大学)
  • [衣装制作協力]寺本なおみ(NMWorks)、TechShop Tokyo
  • [制作助言・人形拵え]勘緑(木偶舎)
  • [協力]株式会社資生堂 ビューティ―クリエイションセンター、木偶舎、NMWorks、(有)赤沢製作所、徳島県立阿波十郎兵衛屋敷、⼀般社団法⼈Future Center Alliance Japan(FCAJ)
  • [ディレクター]吉田敦也(徳島大学)

お鶴“OTSURU”

2017年8月に徳島大学フューチャーセンターA.BAにて、中高生を対象とした6日間の教育体験プログラム「伝統にチャレンジ-中高生がプロフェッショナルとつくる阿波人形浄瑠璃ワークショップ-」を開催しました。伝統をメイク2作目となるお鶴のヘアメイクは、このプログラムの中で参加者の中高生の思い思いの感性を反映させて作り上げました。このワークショップの核となるのは、中高生が浄瑠璃人形を作り遣ってみるまでのプロセスを旅のように体験することです。この道標となる浄瑠璃人形として、中高生という若い世代が感性を投影しやすく、彼らの年齢に比較的近い「お鶴」が題材として選ばれました。

お鶴とは、傾城阿波の鳴門という阿波藩(徳島県)の御家騒動を題材にした物語の主人公、9歳の女の子です。祖父母に育てられたお鶴が、両親を探す巡礼の旅に出かけた先で巻き起こる悲劇の物語となっており、特に徳島では多く上演されている有名な演目の一つです。伝統的なお鶴人形は、子供らしさを出すために小ぶりに作られていますが、それでも子供が遣うには少し重さのある作りとなっています。また、悲しみを表現するために目の開閉のカラクリが入れられている他、頭を上下に動かすカラクリが備わっています。

私たちは、伝統にチャレンジプログラムに合わせて、中高生が遣いやすくなるよう、本来のお鶴よりもひと回り小さいサイズに3Dデータを加工しお鶴を出力しました。初めてカラクリの機構を組み込むということで、今回は目よりも構造がシンプルな頭を上下に動かすカラクリの再現に絞り、取り入れることができました。

お鶴のヘアメイク

ワークショップ5日目と6日目に行われたお鶴のヘアメイク。講師は、お七のヘアメイクを担当した資生堂トップヘアメイクアップアーティストの計良宏文さん。参加した中高生は、プログラム前半でお鶴の生い立ちや物語を学んだ知識を生かしながら、想像を膨らませ、自分なりのお鶴のメイクを考えていきます。まず計良さんが製作プロセスを実演してみせ、気をつける部分や大事にするべき箇所、コツなどを中高生に伝授していきます。そこから、一斉に自由にメイクが始まります。計良さんから「正解はないよ、自分の思うお鶴をつくろう」と声をかけられ、背中を押された参加者は、真剣な眼差しで、自分の世界にのめり込んでいきました。

“私のお鶴”と触れ合う

ワークショップ最終日に行われた人形遣い体験。自分で作った人形を遣うという新感覚の体験が初めて実現した日でもあります。講師として人形遣いの勘緑さんをお呼びし、人形を遣ってあいさつをすることからはじめました。チョイと呼ばれる頭を上下に動かす紐を片手で操る方法を学び、三人遣いの体験へ。小ぶりで軽量な人形に仕上がったことで、初めて遣う人でも人形を高い位置で操作しやすくなったようです。

参加者感想

“データは文化や地域を越えて使うことができる1種のコミュニケーションツールになるのかもしれないと思った。自分の思ったものが実際に手に取ることができると思うと将来が楽しみになった。” (高校生, 男)
“今回人形を遣ってみて、重くて、難しかったけど、また、やってみたいなと思った。これからも、人形浄瑠璃について、勉強してみたい。とても有意義な時間で楽しかった。” (中学生, 女)
“目周りを左右対称に描くのがとても難しい。人によってまったく違う顔になるのはとても面白い。” (ワークショップアシスタント大学生, 男)
“人形の顔や造りをじっくりと見たり、また実際に作ってみたりすることは、これまであまり意識してこなかった徳島の伝統である人形浄瑠璃を身近に感じる良い機会となりました。
一つ一つのパーツや部分に、作り手の気遣いや思い、工夫が込められていることに、改めて感動しました。” (ワークショップアシスタント大学生, 女)

伝統にチャレンジプログラム概要

普段私たちは、完成された浄瑠璃人形を完成されたお芝居の中で観ることができますが、一方で、舞台の裏側に広がる「制作の物語」に触れる機会はほとんどありません。人形師の巧みな彫りや塗りの技術、人形遣いとの密なコミュニケーションによって、魂のある人形がデザインされ生み出される過程は、人形の個性や魅力を引き出し、観劇者と舞台上の人形との距離をより一層近づける力となるでしょう。
このプログラムでは、3Dプリンターを始めとするものづくりの時間尺度を大きく変革する技術を用いて、観劇者が人形制作の様々な興味深いステップを凝縮して追体験することを実現しています。この追体験を通して、伝統の未来を担う参加者が、人形浄瑠璃の創造への可能性と魅力に触れ、新時代の一歩を踏み出すきっかけになることを目指しました。

講師は、創造の先端を伝えるために世代や領域が異なる様々なクリエイターにご協力いただきました。

[1日目]阿波人形浄瑠璃の歴史を学び演じる
阿波十郎兵衛屋敷 佐藤憲治氏、阿波木偶作家協会 吉田尚行 氏
[2日目]3Dスキャナーでかしらづくり
徳島大学講師 浮田浩行
[3日目]カラクリを組み立てて手足づくり
徳島大学理工学部 河野太樹、徳島大学講師 浮田浩行
[4日目]デジタルアーカイブ反物を使った着物づくり
人形遣い 矢部惠子 氏
[5日目]命を吹き込むメーキャップ
資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 計良宏文 氏、木偶舎 勘緑 氏
[6日目]お鶴、誕生 〜人形遣いを体験する〜
木偶舎 勘緑 氏

News

  • ■2017年7月31日 徳島新聞に伝統にチャレンジワークショップの紹介記事が掲載されました。

PROJECT MEMBERS CREDIT

  • [原型]お鶴
  • [作者・年代] 不明
  • [人形の貸し出し協力]徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
  • [ヘアメイク指導]計良宏文(資生堂)
  • [人形遣い指導]勘緑(木偶舎)
  • [他講師]佐藤憲治(阿波十郎兵衛屋敷)・吉田尚行(阿波木偶作家協会)・浮田浩行(徳島大学)・河野太樹(徳島大学A.BA座)・矢部惠子(人形遣い)・寺本なおみ(NMWorks)
  • [3D人形カシラ制作]浮田浩行(徳島大学)・(有)赤沢製作所
  • [3D人形胴手足制作]河野太樹(徳島大学A.BA座)
  • [衣装制作協力]寺本なおみ(NMWorks)・TechShop Tokyo
  • [制作助言・人形拵え]勘緑(木偶舎)
  • [ディレクター]笹尾知世(徳島大学)
  • [ワークショップアシスタント]河野あさな(徳島大学A.BA座)・大霜晶子(徳島大学A.BA座)
  • [主催]徳島大学地域創生センター(現・人と地域共創センター)
  • [協力]株式会社資生堂 ビューティ―クリエイションセンター・木偶舎・NMWorks、(有)赤沢製作所・徳島県立阿波十郎兵衛屋敷、⼀般社団法⼈Future Center Alliance Japan(FCAJ)
  • [共催]徳島県教育委員会

初くん“HAJIME”

2017年11月に、伝統をメイクの活動に興味を持った大学生が集まり、徳島大学初の創作人形浄瑠璃クラブ「A.BA座」を立ち上げました。オリジナルのストーリーを書き、その物語に合わせて浄瑠璃人形をつくる、そして演じることを一連の活動として取り組んでいます。そして2019年、伝統をメイク3作目の人形は彼らによって作られました。この人形は、新たに伝統的な浄瑠璃人形を3Dスキャンして作られたものではありません。2作目に作られたお鶴3Dデータを下敷きに3D-CADでデータを変形させながら、全く違う年齢と性別の人形を作り上げたのです。

初くんとは

初くんは、徳島大学の留学生が徳島の自然にインスピレーションを受けて自身を重ねながら書き上げた小説『大学生A』の主人公をモデルにデザインしています。一見どこにでもいそうな浮かなげな男子大学生。彼の日常が少しずつ夢と混じり合っていく中で、一歩を踏み出す小さな兆しを見つける心の機微が表現された物語です。
この物語に表現されるように、初くんは、どこか儚げで中性的な表情をしています。3D-CADで手を加えた荒い肌も、彼の心の荒みを表現しているようです。お鶴の人形を変形させているため、この人形は顔を上下に動かすカラクリが備わっています。これを使って彼の心の落ち込みや前向きになる気持ちの変化を表現していきます。

初くんのヘアメイク

初くんのメイクは、伝統的な浄瑠璃人形にはみられないアニメ調。目は特に大きく誇張され遠くからでも目を惹きます。瞳の中に光を描き入れてしまうのも、これまでの浄瑠璃人形にはなかった表現です。中性的な顔立ちとなり、髪が長ければ女の子とも見間違えるほど。しかしお鶴の3Dデータにはある幼さは取り払われ、しっかりと大学生の表情になっています。大学生自らが製作したからこそできた表現なのかもしれません。

初くんYoutubeデビュー

その後、徳島大学A.BA座では、この初くん人形を主役とした映像作品「大学生A」を撮影し、作品をYoutubeに公開しました。初くんを遣うのはプロの人形遣い集団「木偶舎」に協力を依頼。現代の大学生生活をリアルに表現する斬新な作品となりました。

活動・公演の展開

PROJECT MEMBERS CREDIT

  • [原型]お鶴
  • [作者・年代] 不明
  • [人形の貸し出し協力]徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
  • [小説・脚本]KaDang(徳島大学A.BA座)
  • [3D人形カシラ制作]河野太樹(徳島大学A.BA座)・河野あさな(徳島大学A.BA座)
  • [3D人形胴手足制作]河野太樹(徳島大学A.BA座)・増田花鈴(徳島大学A.BA座)
  • [ヘアメイク]河野あさな(徳島大学A.BA座)
  • [制作助言・人形拵え]勘緑(木偶舎)
  • [コーディネーター]笹尾知世(徳島大学)